平成17年2月3日
厚生労働省
医政局長 殿
健康局長 殿
医薬食品局長 殿
保険局長 殿
平成16年度 医療協議 議題
東京HIV訴訟原告団
大阪HIV訴訟原告団
一
医療協議においては、平成16年12月24日付け厚生労働大臣宛「HIV医療体制整備に関する統一要求書」の内容に加え、追加事項、および重要な事項について協議されたい。
1.医療全般に関する要求
1.1 救済医療としてのHIV医療の確保および協議要綱の確定
1) 国、および独立行政法人国立病院機構グループのブロック拠点病院に関して
現在の感染被害者の状況、HIV感染者の爆発的な増加などを通じて、ACCおよびブロック拠点病院が果たさなければならない役割は、設立当時に比べてきわめて大きくなってきている。しかしながら、ACCおよびブロック拠点病院において、その役割を果たすだけの体制は整備されているとはいえない。国は、現在の感染被害者の状況、HIV感染者の爆発的な増加を鑑みて、HIV医療を国策として位置づけ、HIV医療体制の大幅な増強を緊急要望する。
厚生労働省および独立行政法人国立病院機構においては、将来を見据えたACC・ブロック拠点病院の体制整備を進められたい。
特に、全国的な拠点となるACCおよびHIV/AIDS先端医療開発センター、また患者数増が著しい名古屋医療センターについては、大幅な体制の強化と増員をされたい。
2) 国立大学病院のブロック拠点病院に関して
国立大学病院のブロック拠点病院についても、日本のHIV医療体制を支えるブロック拠点病院としての機能を果たすとともに、さらには教育・研究の分野における役割を果たすことが期待される。
そのため、国としてHIV医療体制整備に全力を尽くされるとともに、国立大学病院のブロック拠点病院に対する措置を充実・強化されたい。
3) 協議要綱の確定
国立病院・国立大学の独立行政法人化後、HIV訴訟原告団と国との各種協議要綱について確定していないものがある。国は、HIV医療を医療政策として位置づけ、経済効率にとらわれることなく、HIV医療体制を充実・強化するとともに、早急に協議要綱を確定されたい。
1.2 新薬の迅速導入体制の構築
国による抗HIV薬の迅速審査制度の導入等により、和解以前に比較すれば新薬導入が改善されてきている。しかしながら、抗HIV効果が高いと認識された薬剤が、欧米に遅れること約3年、ようやく本年3月末に承認・販売されるなど、いまだに新薬の迅速導入体制は満足できるものではない。このように市場原理や製薬企業側の新薬承認申請の遅れ等によって、新薬の迅速導入ができない現状は、HIV感染被害者救済の観点からは看過できない問題である。 したがって、国は欧米等で認可された抗HIV薬にとどまらず、抗日和見感染症薬や抗HCV薬についても、迅速審査・導入できる体制を早急に整備されたい。
1.3 血友病治療環境の整備
1) 遺伝子治療を含む研究体制について 血友病の根治療法を確立させることによって、血友病患者は未知ウイルスの感染などのリスクから解放される。したがって血友病の根治療法を早期に確立するとともに、遺伝子治療等の血友病の根治療法に係る研究開発に対して予算を集中的に投入されたい。
2) 血友病専門医の確保について
かねてから要求するところであるが、我々薬害被害者の治療においては、原疾患である血友病に加え、HIV/HCV重複感染症の肝臓機能低下による凝固能低下も相まって、高度かつ細心の注意を伴った止血管理が要求される。上記関節症治療の現場においても、なおさら高度の止血管理が不可欠である。したがって国は、ブロック拠点病院に、止血および凝固管理の常勤の専門医師(血友病専門医)を、早急に確保されたい。
3) 血友病治療環境の確保および不適切な減額査定の解消について
現在、全国的に入院医療包括評価(DPC)制度を導入する動きがあるが、昨年4月に起きた血友病のDPC導入を巡り、救済医療の根源にかかわることから導入しないことで決着を見た。感染被害者の命を国が守る約束において、その根幹となる血友病治療及びHIV感染症治療に医療費負担を生じることの無いよう、徹底を周知されたい。
したがって、平成13年度大臣定期協議(平成14年8月5日実施)の「厚生労働省は、患者・感染者の医療に係る保険請求について、一律で不合理な減額査定がある場合には是正するものとする。」との確認事項および、平成15年度大臣定期協議(平成16年5月24日実施)の回答書「2(4)5の4 ?(略)HIV感染者の方々が不安なく必要な治療が受けられる環境を整備することは?(略)」に基づき、国は今後も継続的に血友病治療環境を確保するとともに、不適切な減額査定を解消するよう、今一度確約されたい。
4) 各拠点病院における減額査定状況の調査
国は、エイズ診療拠点病院でのHIV感染被害者の減額査定状況を正確に把握するため、全拠点病院の減額査定状況を調査するとともに、不適切な減額査定が疑われる場合には、速やかに是正されたい。
1.4 HIV/HCV重複感染者の肝炎治療に関する医療環境の充実
我々HIV感染被害者がHIVのみならずHCVにも重複感染し、HCVの脅威に晒され、また長期にわたる抗HIV療法の副作用(薬剤性の肝機能増悪)により、確実に肝臓が蝕まれているのは周知の事実である。平成15年度大臣定期協議(平成16年5月24日実施)における大臣発言に基づき、以下の項目について早急に対応されたい。
1) インターフェロン(以下IFN、PEG化IFNを含む)および、強力ミノファーゲンCの家庭内自己注射を実現されたい。
2) HIV感染被害者救済の観点から、肝硬変などの肝炎の進行状況、HCVウイルス量、ウイルスタイプなどにかかわらず、リバビリンおよびPEG化IFNによる併用療法を健康保険適応されたい。
3) 現在、肝硬変へ進行した患者に対する緊急救済医療の一環として生体肝移植が進められている。しかし、最後の一手段である生体肝移植において、肝臓の一部提供をしていただくドナーの確保は困難な場合が多い。ドナーを確保できずに肝炎悪化で死と直面している被害者は年々増えている。国は、HIV/HCV重複感染者に脳死肝移植を含め、移植医療の更なる環境整備を進められたい。
1.5 長期治療、薬剤副作用等に対するヘルスケア体制の整備について
1) 長期治療、薬剤副作用に対する治療・研究体制の整備
感染被害者の多くは、抗HIV薬投与が長期にわたり、また抗HIV薬のみならず、HCV治療でのインターフェロン投与などによる深刻な副作用に苦しんでいる。しかしながら、現在の医療現場では、長期治療・薬剤副作用に伴う身体・精神症状についてのケアが十分に行われているとはいえない。国は、個々の患者の治療期間・薬剤副作用に着目した治療・研究体制を整備されたい。
2) メンタルヘルスケア体制の整備
このような状況下、特に感染被害者について、中枢神経障害等の精神症状が深刻化している。しかしながら、現在の救済医療の現場では、長期治療・薬剤副作用に対するメンタルヘルスケアは十分に行われているとはいえない。よって、国およびブロック拠点病院はHIV感染被害者の実情を把握し、HIV専門医師と、精神科、心療内科、神経内科など精神・神経領域の専門家とが十分に連携を取りながら、メンタルヘルスケアを提供できる治療・研究体制を早急に整備されたい。
1.6 看護実務担当者の専任化
1)HIVコーディネーターナースの資格認定
ACCおよびブロック拠点病院において、看護実務担当者は、継続的に専門的な患者サポートを行っている。とりわけACCにおいては、薬害エイズ事件を教訓として、医療者全体でチーム医療を組み、最先端・最高度の医療をHIV感染症患者に提供するためにコーディネーターナースが設けられた。そして院内医療の調整のみならず、患者の生活全体について医療者の立場から支援を行い、副作用の厳しい抗HIV薬を生涯にわたって厳格な服薬継続を要求される患者を支えてきている。さらに今般、ブロック拠点病院においても、患者数の急増と療養期間の長期化によって、看護実務担当者の意義・役割は大きくなっているところである。
しかしながら、ブロック拠点病院等の看護実務担当者は、このような大きな役割を期待されているにもかかわらず、現実には一般外来業務との併任もしくは、非常勤のリサーチレジデントであるなど、担当者の専門性・継続性すら担保できない状況にある。先駆的医療の範たるHIV医療を更に良きものにするためには、看護師においても、その専門性を十分駆使できるような体制を整備されたい。
2) 看護実務担当者の、療養相談・指導に対する診療報酬の新設
HIV医療体制整備の一環として、このような資格を持つ看護実務担当者が、患者に対して療養相談・指導等をした場合、「慢性感染性疾患療養指導料(仮)」として算定し、保険上の措置をされたい。
1.7 エイズ拠点病院・診療協力病院等へのサポート体制の強化
拠点病院でありながらブロック拠点病院に患者を転院させるなどして、明らかに拠点病院としての役割を放棄しているといわざるを得ないケースが散見される。また一方で、通院患者数が急増しているにもかかわらず、限られた体制ながらも診療を行っている施設も存在する。
したがって、国およびブロック拠点病院は、各拠点病院のHIV診療体制を拡充・支援するために、多職種からなるHIV診療支援チームを編成して各拠点病院に派遣したり、各拠点病院の診療経験に応じたHIV/AIDSに関する研修プログラムを作成するなどの充実した研修者受入体制を整えられるなど、拠点病院等へのサポート体制を強化されたい。
1.8 ブロック拠点病院の検査体制の強化
全ブロック拠点病院において、HIV医療に関連する最先端の研究的検査(薬剤耐性検査、血中濃度測定、各種日和見感染症診断検査)が実施できるような体制を早急に構築されたい。
1.9 ACC・ブロック拠点病院の調整官・コーディネーター・専任看護師と患者との連携の強化
HIV医療体制において、院内の医療及び院外の医療を活用して、患者に最善の医療を提供し、QOL向上のための環境整備を行うための調整官・コーディネーターナース・専任看護師がACCやブロック拠点病院に配置されている。これは、厳しい治療を強いられている被害患者およびHIV医療を受ける患者についても、医療を受ける際の窓口的存在でもあり、患者の生活・医療等々は、これらコーディネーターナース等の活発な活動がなければ保障できないといっても過言ではない。今後さらに厳しくなる被害患者の医療について、院内外においてよりよい治療を受けられるよう、またQOLの向上のため、さらには患者の命を守るために活動していただくため、ACC・全国のブロック拠点病院におけるこれらのスタッフが一堂に会し行う、患者との協議連絡会を設置されたい。
1.10 ブロック拠点病院における病床設備の拡充
HIV感染被害者が、確実かつ速やかに個室入院できることの周知徹底を図ると共に、これに対応した病棟体制を構築し、病床を確保されたい。
1.11 長期療養・介護が必要な患者の医療体制整備
HIV感染被害者への救済医療は、最新・最先端の濃厚医療だけでなく、長期療養、あるいは介護も必要とする。感染被害者が安心して長期療養、介護を受けることのできるよう、濃厚医療から長期療養まで一貫した視点での医療が受けられる、実質的な医療体制を整備されたい。
1.12 ブロック拠点病院におけるHIV治療の広報等、周知の徹底
ブロック拠点病院は全国に散在するHIV感染者に、医療の地域格差を生じないよう最高度の医療が提供される最前線として設置されている。昨今のHIV感染者急増と治療の手遅れが多いという現状を鑑み、感染者のブロック拠点病院アクセスを容易にするHIV診療案内をホームページ等々で公示するよう徹底されたい。
エイズ治療・研究開発センターに関する要求
エイズ治療・研究開発センター(ACC)の医療体制拡充と機能強化について
エイズ治療・研究開発センター(ACC)は、HIV訴訟和解確認書にのっとり、感染被害者への救済を目的として、最新・最高度の治療、および研究開発・情報提供・研修実施の場として設置されたものである。しかし感染被害者にとって、重複感染しているC型肝炎の重症化は深刻になってきている。HIV/HCV重複感染症を含めた、被害患者への高度な医療の提供、治療開発を強く要望する。
また、わが国の患者の7割が集中する首都圏での医療体制の構築について、ACCに新たな役割が付与された。その機能を更に充実させるとともに、我が国におけるHIV医療のナショナルセンターとして人的・物的な拡充が不可欠なところである。加えてACCのある国立国際医療センター病院の建替え計画が進行中である。このような状況を受け、ACCの機能強化、整備拡充について、以下のとおり要求する。
2.1 首都圏医療協力部
わが国の感染者の7割が集中している首都圏の医療体制の構築について、数年間にわたって協議を重ねてきたところである。首都圏における診療支援の事務局はACCが担うことになったが、首都圏医療協力部として本格的に診療支援を行う体制づくりについては、本年7月に行われた、厚生労働大臣とHIV訴訟原告団との定期協議において、厚生労働大臣から、早急に検討を進めるという回答がされた。それに基づき、具体的にACCと拠点病院等との連携を行う首都圏医療協力部をACC内に新設されたい。事務局は、医師、コーディネーターナースを一定期間首都圏の拠点病院等に派遣し、当該病院のHIV医療現場とスタッフを支援し、診療のレベルを向上させ、ACCとの連携の確保を目指す。これにあたり、医師、コーディネーターナース、担当事務職員を増員されたい。また、これらスタッフの派遣、受け入れの障害となる制度上の制約を除去されたい。
2.2 国立国際医療センター病院建替えについて
原告団に国立国際医療センター病院の建替えの図面案が提示されたところである。現在も患者が急増している日本のHIV医療の司令塔として、ACCの機能の拡充は必須のものである。今回提示された図面案では、先に原告団がACC運営協議会などで要望した内容からするとあまりにも脆弱で、日本のHIV医療の司令塔たる設備にふさわしいとは到底いえない。わが国のHIV感染者の増加と、薬害被害者の厳しい現状からして、専用病棟・外来・研究室等々のACC医療施設について、原告団の要望に沿う形に図面を修正されたい。また、図面についての原告団と厚生労働省、医療センターとの協議の場を早急に設置されたい。
2.3 物的整備の件
1) 専門外来拡張
現在の専門外来の拡張については、外来の改修により4診療室で対応することとなっている。しかし、外来通院者は激増しており、他方で病院の建替え完了は8年後であることを考慮すると4診療室では早晩機能が麻痺してしまうこと必至である。診療部長からも「4診でも年内でパンクか」との危惧が表明されている。よって、早急に6診療室確保に向け検討されたい。
2) ACC研究室の確保、検体保管冷凍室の確保
現在、ACCの研究部門は、治療開発室として、医療センター研究所の一部を間借りしている状態である。さらには、新たな研究機材を導入するスペースすらない状況は、HIV感染症治療研究のナショナルセンターとしてふさわしいとは到底いえない。したがって、より広いスペースに独立したACC研究室を確保されたい。また、研究開発のための重要な資産である検体保存のための冷凍室についても、早急な設置を求める。
2.4 人的整備の件
1) 首都圏医療協力部スタッフの増員
2.1項でも言及したとおり、首都圏医療協力部所属の医師、コーディネーターナース、担当事務職員を増員されたい。ACC運営協議会においても、センター長より、ACCの患者増もあり、現有スタッフ数では、首都圏の医療支援は到底困難である旨表明されているところである。
2) 外来スタッフの増員
2.3 1) の外来拡張にともない、医師、コーディネーターナース、外来看護師を増員されたい。
3) 研究職員増員
2.3 2)の研究室確保にともない、研究機能強化のため、研究職員3名を正規職員として新規採用されたい。
2.5 その他
1) 先端・専門医療充実の件
HIV医療体制及び関連する感染症・血友病や関連血液疾患・肝炎治療等の最先端医療及びゲノム医療研究などの最先端研究がACCにおいて十二分に行われるよう、また関連する研究機関等々と協力し、共同して研究に参画できるよう、予算措置を図るとともに、そのような体制の構築を要望する。
2) ACCの位置づけの明確化と将来構想(独立)
和解時のエイズ治療研究センター設立協議において、原告団は特別な使命を遂行するため、また既存の制約や干渉による運営障害を避けるため、独立の施設とするよう要求した。しかし、厚生大臣交渉等で、独立の施設を作るには3年かかるとのことから、その設置の緊急性に鑑みて、当面の措置として国立国際医療センター病院内に特別な位置付けで置くこととした。しかし、近年国立国際医療センターや国立病院課がこの特別な位置付けを忘れ、既存の制約等々による運営障害を招いているところは見過ごすことができない。古い父権主義的医療体質が薬害エイズ被害拡大の要因であったという反省からも、既成の概念に囚われない患者も参加した新しい医療体制を構築し、患者に身になった医療・新たな疾病の治療開発を行おうというところにACC設置の原点がある。ACCは、21世紀の新しい医療システムの出発点でもあり、また世界的課題でもあるHIV感染症医療のわが国の拠点でもある。そうした理念を明確に掲げ、国立国際医療センター、さらには社会一般に周知徹底されたい。 また、このような理念に基づいて実効を挙げていくためにも、血友病患者の被害救済医療を十二分に行うことができるようにするためにも、改めて、当初の要求の通りエイズ治療・研究開発センター(ACC)を、研究施設を含め、大規模な独立施設とすることを求める。
3.HIV/AIDS先端医療開発センターに関する要求
HIV/AIDS先端医療開発センターは、ACCと共に両輪となって我が国のHIV医療の根幹をなす重要な拠点であると認識している。しかしながら現状は、ACCに比較して人的体制・設備など不十分な点が多い。したがってHIV/AIDS先端医療開発センターのHIV医療体制を拡充するために、大幅な増員・設備整備等を要望するが、特に以下の項目について重点的に整備されたい。
1)専任看護師の増員および看護体制の強化
平成17年1月4日、総合内科から独立した新しい免疫感染症科外来が開設されたが、HIV専任看護師2名のみでは日々増加する患者数に対応できる体制ではない。早急に増員を行い血友病HIV感染被害患者の看護体制を一層強化されたい。
2) 血友病性関節症への整形外科治療体制の強化
血友病関節症に対する観血的な整形外科治療においては、止血管理は術中・術後においても十分な配慮が必要となる。したがって整形外科に血友病専門クリニックを設け、さらには血友病症例の経験豊富な整形外科医師を招聘するなど、早急に整形外科的治療体制を整備されたい。
二.中央運営協議会積み残し議題
三.医療協議の議事録作成
厚生労働省は、速やかに平成16年度中央運営協議・医療協議の議事録を作成し、東京・大阪両HIV訴訟原告団・弁護団に送付されたい。
以上
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