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りょうくんの部屋

 

1994年歿 15

キルト2

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腕時計
  
 腕時計は、りょうくんの身体の一部分でした。お風呂に入る時と学校に行く時以外は、常にりょうくんの腕に巻かれていました。
 入院中のあるとき、看護師さんが申し訳なさそうに「今日、CTの検査があるので、腕時計を外してね」と言いました。そのときのりょうくんの情けなさそうな顔が今でも浮かび、心がほっと暖かくなります。
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ウルトラマン
  
 あの頃の日本のほとんどの男の子と同様、りょうくんもウルトラマンと怪獣達が大好きでした。ウルトラ怪獣大図鑑が座右の書で、ぼろぼろになるまで読み、というか眺め、怪獣の塩ビ人形、ガチャポンのゴム人形は、私の買い物についてきてはせがんで(しかもお兄ちゃんの分まで)、ついにはダンボール箱一杯になりました。
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オムライス
  
 お兄ちゃんと私は偏食党なのに、りょうくんは何でもよく食べ、しかも食べることが大好きでした。それでもさすがに入院中の病食には飽きてきて、私に病院の近くの中華料理店のマーボ豆腐が食べたい、洋食店のオムライスが食べたい、とオーダーしたものです。勿論りょうくんの頼みとあればどこへでも、喜び勇んで買いにいきましたっけ。

 1994年夏、彼は「永遠」という世界へ旅立ちました。まだ15歳という若さでした。
 当時HIV感染者への社会の差別偏見はすさまじいものがあり、彼が感染者であることを周囲へ知られることを恐れるあまり、HIV情報の入手さえためらわれました。ほとんど情報が得られないということがどれほど人を無力にすることか、パソコンが普及した現在からは考えられないくらいです。
 彼が中学へ入学したころ、あれほど恐れていたことが現実になりました。HIVの発症です。学校よりも病院にいる時間の方が長くなり、それでも彼は愚痴ひとつ言わず入院生活に耐えていました。優しい看護婦さんたちに大事にしてもらって、もしかしたら楽しんでいたのかもしれません。
 今、彼はどこで何をしているのでしょう。もう少ししたら会いに行きます。待っててね。

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