top of page

 

患者の声

   当事者委員としての私の思い   聞き取りの現場に立ち会って   恩寵と鎮魂   みんな頑張ってますね!

    ―序文にかえて―

   社会参加への一歩    血友病という疾患    ​語り手として、聞き手として   生きなおすことと医師のモラル

   

 『「生きなおす」ということ』

みんな頑張ってますね!

藤原 良次

はじめに
 2009年から始まった、生活実態調査もいよいよ報告書を作成することになりました。今回の実態調査は看護学・保健学の専門家と社会学の専門家を加え、病気の状態を調査の中心に据えるのではなく、家族、友人、就労・就学、結婚、挙児等の生活面からの調査を進めました。また、薬害エイズ被害患者の原疾患「血友病」にもフォーカスをあてました。
 今回の調査の目的は、被害患者の今を知ることと、今後の相談事業に活かすことでした。

1.世代によって「今」が違うよ
 50代、40代、30代と調査してみて、病気との折り合いの付け方が違っていました。
50代はHIVの前に血友病があり、血友病を持っていても、出血、関節障害等と折り合いをつけて、就職し、結婚し、子どももいる人もいました。HIV感染は、その後にもう一つ増えたものとの印象でした。しかしながら、もうひとつ増えた、HIVにより、離職したり、入院回数が増えたりと実際は大変なことがあるようです。それでも、働いている奥さんの食事を作ったり、職場の後輩の世話をしたりと、自分の存在感を自分自身で作っているようでした。病気を持って生きていた芯の強さを感じました。
 40代はHIV感染が分かったころは職についていました。血友病を濃縮製剤の定期投与により、ある程度克服し、健康な人と変わらない生活をしながら、恋愛、結婚、子どもを授かる未来を、いきなり奪われたような経験をしています。私自身がそうでした。ある語り手は、インタビュー当時無職で、発症手当と年金で暮らしていましたが、パチンコによく行くようでした。現在のありようを本来の自分ではないと思っているようでしたが、「チェンジ」を望んでいるかは聞き取れませんでした。自分の病気も親には話しているが、兄弟には話してないとのことでした。
 30代からは、普通の人を演じて生きている姿が見受けられました。「普通」の定義は様々でしたが、自分が決めた「普通」に正直に向かっていました。しかし、実際の社会、自分の体調との折り合いはついていない印象でした。結果、友人との関係を深くしない。仕事は無理をしても行く。親との距離をとる。自分の体調を深く知ろうとしない。などの対処をしていました。一つ一つを丁寧に変えていき、自分自身を快適なところに持っていこうとすることは苦手な印象を受けました。それにはHIVに感染した年齢と告知を受けた状態が大いに関係すると予測します。未来を失った事実をいつ、どのように、伝えられたかをこの調査では、はっきりさせることができませんでした。先行調査で告知を調査した報告もあるので、今後、別の機会に研究したいテーマです。

2.なにか違うぞ
 HIV感染者であることは、隠し続けなければいけないか?
 私はそうは思いません。けれど、そう思って、ばれない努力をしている人をおかしいとも思いません。私は私自身に何も落ち度がなく、HIVに感染させられた被害者であり、HIVは根治薬こそないが治療薬もあり、感染経路も解っています。そこを防御すれば、自分が感染源になることはありません。すべてのHIVに感染された方、特に薬害被害者の方は、過去に受けたトラウマと今の現実をもう一度考えてもらえないだろうかと願います。
 子どもは体外受精の方法しかないか?
 私は、自然な形での子どもが欲しい。勿論、妻が絶対HIV感染を望まなければ、子どもを持つことができない。
 インタビューをした多くの方が「体外受精」にチャレンジしていることに違和感を感じます。本当にパートナーとHIV感染について話しているのだろうか。2人で決めているのだろうか。別々にカウンセリング等の相談をうけているのだろうか。2人で決定してほしいと思いますし、パートナーの気持ちを尊重して欲しいと思います。

3.最後に私自身
 和解から15年が経過しましたが、私自身は23年前にHIV感染の事実を知り、谷底に落とされたこと、エイズを発症し、死を覚悟し涙したことから完全には立ち直っていません。それでも、仕事としても、HIVやC型肝炎、血友病と向き合う中で、自分が発する言葉に勇気づけられ、加えて周りの人すべてからパワーをもらい、HIV陽性者であっても幸せな人生を生きられると思い始めています。

 今回インタビューに応じて頂いた患者の皆様、調査研究を共にして研究者、患者研究者の皆様のご健康とご多幸をお祈りいたしております。

bottom of page